2011年3月に発生した東日本大震災が,日常の交通行動に与えた影響を調べるために,アンケート調査を実施しました.その概要と結果を報告いたします.
調査時期
2011年11月
調査方法
紙ベースのアンケート調査(全8ページ).ポスティング配布,郵送回収.
配布地域・回収率
仙台市太白区八木山地区(600部配布),仙台市泉区寺岡地区(600部配布),名取市那智が丘・ゆりが丘地区(600部配布).配布地域はいずれも,公共交通機関が一定程度整備されているが,自動車依存度が高い地域である.
有効回答数は629部,有効回収率は34.9%.
調査項目
- 交通機関の利用頻度:「平成22年11月から平成23年2月」「震災後から平成23年4月下旬」「平成23年10月から11月」の3つの期間について,移動目的(通勤通学,非通勤通学)ごとに1ヶ月あたりの各交通機関の利用頻度を尋ねた.
- ガソリン給油行動:「平成22年11月から平成23年2月」「現在」の2つの期間について,給油を行うタイミングを「少しでも減ったら」から「給油ランプが点灯してから」の5件法で回答を要請した.また現在の状況について,周りの人たちの給油のタイミングをどう認知しているのか,同様に5件法で回答を要請した.
- 他者の行動変化:周りの人たち,および一般的な人たちの行動変容をどのように認知しているのかを尋ねた.具体的には,公共交通機関や自転車,徒歩で移動する人が増えたと思うかどうかを3件法もしくは5件法にて尋ねた.
- 各種心理要因:公共交通機関および自動車の利用に対する態度,各交通機関への習慣強度,公共交通機関利用および自動車利用抑制に関する行動意図・実行意図,環境問題やエネルギー問題への関心・意識,大衆性指標の質問を設けた.
- その他:個人属性に加え,1年前と現在の日常生活パターンの(心理的以外の)変化について,「全く変わらない」「ほぼ変わらない」「まだ混乱している」の択一式選択肢で回答を要請した.
調査結果
<交通機関の利用頻度>
通勤時の利用交通機関を下に示す.図は1ヶ月あたりの利用回数平均値の変化であり,片道を1回としている(図をクリックすると大きなサイズの図が表示されます).地区ごとに若干の特徴は見られるが,概観して,「自動車や公共交通機関の利用は4月には減少していが,10月にはほぼ震災前の利用頻度と同等」となっている.一方バイクおよび自転車利用は4月に増加した.自転車利用は10月には(震災前と同程度まで)減少する一方で,バイクについては震災前よりも利用が増えていた.自動車依存度が高い今回の調査地域においては,自動車(クルマ)から自転車(チャリ)への大きな転換は確認できなかった.
次に,非通勤交通(買物など)の利用機関を下に掲載する.自動車(クルマ)利用は,通勤交通と同様に,4月に一度減少し,その後回復しているが,4月の減少割合が通勤交通よりも大きい.これは,ガソリン不足の影響で,通勤以外の交通を控えたためと推察される.一方,公共交通機関(電車・バス)利用については,八木山地区以外は4月に増加している.八木山地区と仙台駅方面を結ぶバス路線が4月下旬まで迂回運行(地震により鹿落坂が通行止め)となっていた影響が考えられる.バイク利用を見ると,八木山地区以外は震災前と比較して4月,現在ともに増加している.特に名取地区は,通勤・非通勤問わず,大きく増加した.自転車利用については通勤交通と同様に,4月に一度増加するものの,それ以降は震災以前と同等になっていた.
<自動車燃料給油のタイミング>
設問は「クルマへの給油はどのようなタイミングで行いましたか?(行いますか?)」とし,回答は5件法(「少しでも減ったら」〜「半分程度減ったら」〜「給油ランプが点灯してから」)で要請した.震災前(下左図)と現在(下右図)とで,回答数を比較すると,現在の方が早めに給油する人が多い(図をクリックして大きな図で比較してください).「少しでも減ったら」を「1」,「給油ランプが点灯してから」を「5」と数値化して,給油タイミングの平均値を算出すると,震災前が3.89であるのに対し,現在は3.42であった.この2つの平均値には統計的に有意な差が確認された(p<0.01).また右図には赤色の折れ線グラフを合わせて描写している.これは,「あなたの周りの人たちはどのようなタイミングでクルマへ給油していると思いますか?」という設問の回答である.回答方法は「自分自身の給油タイミング」の場合と同じである.周りの人たちも同様に早めに給油していると認知しているが,「自分よりも早い」と思っている人が全体の25.3%いた.