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時空人(号外) Vol.17

TEMBEA PolePole
~のんびり歩こうよ~

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2020年5月5日(火・祝)
編集長:菅原景一
執筆担当:菊池 輝
菊池輝 准教授

菊池先生から映画×書籍のご紹介

(執筆:菊池)

「スポーツは好きですか?」
「スポーツは観るのと行うのとどっちが好きですか?」
と聞かれると答えに困る。競技によるからだ。

競技でいうと、プロ野球はよく観る方だ。もちろん東北楽天ゴールデンイーグルスを応援する。(モータースポーツを上の質問の答えにして良いのかどうかは緒論あるだろうが)F1(Formula One、エフワン)もほぼ毎レース観ている。アイルトン・セナが亡くなった1994年5月1日もフジテレビの放送を観ていた。アメリカン・フットボールも観る方だ。特にNFL(National Football League、アメリカ合衆国のプロリーグ)はNHK-BSで放送されるゲームはすべて観ている。バレーボールは大学生までやっていた。センタープレイヤー(ミドルブロッカー)、アタッカー(ウイングスパイカー)、セッターを経験し、自分で言うのは説得力がないが、そこそこ上手な方だと思っている(最近は全くやっていないが、今でも大学の教員室にはバレーボールとシューズがある)。

一方で、ほとんどの学生が好きであろうサッカーという競技にはあまり興味がない。とはいえJリーグ発足に合わせてジーコが来日したときには歓喜したし、今でもときどきバルデラマやロナウジーニョの華麗なプレイをYouTubeで見たくなる。おそらく競技としてのサッカーに興味がないだけなのだろう。

このように、趣味と言っても良いくらいのものがありそうだが、
「スポーツで好きな競技は何?」
という質問も実は困る。上に挙げた野球やアメフトといった競技については「身体運動=スポーツ」の一つの種目として大きな興味があるわけではない。競技をする上でのルールと、そのルールがもたらす勝敗の不確実性に興味がある。要はルール上の戦略の組み合わせによって、弱者が強者にひと泡吹かせる状況に興味がある。サッカーのゲームも時々Upset(番狂わせ)はあるが、そこにルールが関係することはほとんど無いであろう。その視点でいうと、サッカーよりも陸上競技の方が「興味がない」。各選手の身体能力はスゴイと思うが、競技への興味はまったく無い(笑)。

前置きが長くなってしまったが、今日紹介するのは1本の映画と1冊の本。

Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game(2003年・アメリカ)

(執筆:菊池)

(100字あらすじ)

財力のない球団は大物選手との契約が難しく、結果、強いチームが作れない。そんな状況である貧乏球団のGMはサイバーメトリクスと呼ばれる統計学的手法を用い、自チームを強豪チームに作り上げていくスポーツドラマ。

野球のルールを「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と解釈し、「得点の期待値」を向上させる要素を回帰分析によって特定することで、チーム編成や戦略立案に役立てる、というのがサイバーメトリクスの基本的な考え方。日本のプロ野球の選手データにも表記されるOPS(出塁率と長打率を合算した指標)はサイバーメトリクスで最も重要視されている指標である。また打点や得点圏打率は得点に絡む指標として、一般には年俸に影響すると考えられるが、そもそも得点圏に走者がいるという状況(サンプル)が少ないため、統計的なゆらぎが大きいと考えて重要視しない。(いわゆる大数の法則)

この映画はノンフィクションではないが、事実に基づく作品である。映画で描かれている球団は現実に、年俸総額ランキングで30球団中28位(1位の球団の1/3程度の年俸総額)ながらも、徹底したサイバーメトリクスの活用により、全球団中最高勝率・最多勝利数を記録したのだ(2002年)。

深いこと考えずに気楽に観られる映画なので、あれやこれやとここでは書かないが、一つだけ。映画の中で、「統計学」で学習する「二項分布の式」が映るので、見逃すことのないように!なお、二項分布の説明は泊先生の解説動画を参照のこと。

そういえば私が「統計学」を担当していた2012年には「シーズン打率2割5分のバッターが,日本シリーズ4打席で,1本以上のヒットを打つ確率を求めよ」という問題を出題していたことを思い出した。(答えは約68%。逆に言えば、約32%でノーヒットとなる)

野球人の錯覚(加藤英明・山崎尚志著、東洋経済新報社、2008年)

(執筆:菊池)

様々な野球の通説をデータで検証していく内容で、これも気軽に読める。例えば、本の帯(上の写真)にある「チャンスを逃すとピンチは来るか?」については、よく「チャンスの後にピンチあり」「ピンチの後にチャンスあり」と解説者が表現している。しかしデータ分析を行うと「チャンスをつかもうが逃そうが、その次の回の状況に変化はない」ことが分かる。いや、微妙な差ではあるが、「チャンスをモノにした」次の回の失点率の方が高いことも示されている。他にも「無理満塁は意外に点が入らない」はウソ(データでは逆に高い得点率がみられる)である、三者凡退に打ち取っても次の回の得点率は上昇しない等、解説者からよく聞く通説の真偽が多数検証されている。意外なことだが、プロ野球にはmomentum(流れ、勢い)は無いのかもしれない。

映画Moneyballが面白いと思ったら、是非この本を読みましょう。我々の認識の多くが、事実とは異なる主観的なものである、ということを実感するはず。

編集後記

(執筆:菅原)

なんだか、観てみたくなり、読んでみたくなる映画と書籍ですね。現実にどこまでできるのかはわかりませんが、創意工夫や知識と技術をもって“カネ”と“チカラ”に打ち勝つことには個人的に興味があるんですよね。それから、データで通説を検証するのも面白いですよね。当たり前だと思いこんでしまって、検証しようとないことって意外に多いのではないかと思います。世の評論家や政治家と言われる方の中には、通説に沿うようなデータ、自分の説明に都合の良いデータを並べてもっともらしく説明している方も見うけられますが・・・。皆さんはだめですよ。技術者の倫理でそんなことは許されませんからね。

私はもろもろの事情で高校の時に“ニコウテイリ”は名前だけ聞かされて内容を教わらなかったので・・・二項分布の解説動画は勉強になりました。皆さんも泊先生の解説動画を見てみてください。よくわかりますよ。ベルヌーイ試行(ベルヌーイの定理じゃないですよ)から期待値の求め方まで。それから、数式の変形の仕方も・・・おー、そういうことか!と勉強させていただきました。

最後に、菊池先生が実際にプレイされていたバレーボールでは“ルールがもたらす勝敗の不確実性”あるのかどうか? 私はそこが気になってしまいました。

 
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